食べられなくなったとき、どうしますか? ― 経管栄養・点滴・「何もしない」という選択

執筆:増田 翼(看護師)
「明日地球がなくなるとしたら、最後に何を食べたい?」
こんな会話をしたことはありませんか。
私なら、もし明日地球がなくなるのであれば、お寿司を(しかも普段は食べられない高級なものを)思う存分楽しみたいです。
しかし、誰もが人生の最後に好きなものを食べられるとは限りません。これは「人生の最後がいつ訪れるかわからない」という意味ではありません。病気や加齢によって好きなものが食べられなくなり、最期の時が近づくと、口から食べる力そのものがなくなってしまうことがあるからです。
体の自由を奪う病気や、がん、認知症などによって口から食べることが難しくなると、生きる楽しみも奪われてしまいます。
それでも、ガソリンがなければ車が動かないように、人間も生きるためには栄養をとり、エネルギーを体に取り込まなくてはいけません。
では、口から食べられなくなったとき、どのように栄養をとっていけばよいのでしょうか。それとも「口から食べられなくなったら人生の終わり」と割り切り、何もしないのがよいのでしょうか。今回は、その選択肢についてお話しします。
食べられないときの選択肢は大きく3つ
口から食べられなくなったときの選択肢は、大きく次の3つです。
経管栄養
点滴
何もしない
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
1. 経管栄養
経管栄養とは、管(チューブ)を体の中に通し、そこから栄養剤を入れる方法です。「胃ろう」という言葉は、誰もが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
胃ろうは、おなか(みぞおちの下あたり)に小さな穴をあけ、そこから胃に管を通して、栄養剤やミキサーにかけた食事を注入する方法です。
そのほかの経管栄養には、経鼻胃管などの方法があります。経鼻胃管は、鼻の穴から胃まで届く長い管を入れ、そこから栄養を注入する方法です。
胃ろうをつくるには病院での手術が必要ですが、経鼻胃管は鼻から管を入れるため、在宅でも実施することができます。
私も経鼻胃管を入れたことがありますが、管がのどを通るときの不快感は強いものです。ただ、時間が経つと刺激に慣れてきます。
胃ろうのメリット・デメリット
メリット
胃や腸を使うため、栄養のとり方が生理的で、体への負担が少ない
栄養剤によっては、短時間で注入できるものもある
のどに管がないので口から食事をとりやすく、口から食べて不足する栄養を補う目的でも使える
デメリット
手術が必要
1日に数回の注入が必要
胃ろうの周りが赤くなったりジュクジュクしたりと、皮膚のトラブルが起きやすい
定期的な交換が必要
経鼻胃管のメリット・デメリット
メリット
自宅でも挿入することができる
胃ろうと同じように生理的で、体への負担が少ない
不要になったらすぐに抜ける
デメリット
胃ろうと比べて、胃から逆流する可能性が高い
注入に時間がかかることがある
のどに管が通っているため、食事が食べにくい
1日に数回の注入が必要
定期的な交換が必要
2. 点滴
病院で点滴を受けた経験のある方もいると思います。短期間であれば、腕などの細い血管に針を刺して栄養剤を入れる方法がとられます。これを末梢静脈栄養といいます。
末梢静脈栄養は細い血管を使うため、たくさんの栄養を投与することができません。
長期間にわたる場合や、多くの栄養を投与したい場合は、中心静脈栄養という方法になります。胸のあたりの皮膚の下に「ポート」と呼ばれる点滴の差し込み口を埋め込み、そこから体の中心に近い太い血管まで管を入れることで、高カロリーの栄養を投与することができます。
また、別の方法として皮下点滴があります。血管ではなく、おなかや太ももの皮下に細い針を刺して点滴をする方法です。
末梢静脈栄養のメリット・デメリット
メリット
自宅でも点滴をすることができる
胃ろうや中心静脈栄養と比べて、手術の必要がない
デメリット
十分な栄養を投与することは難しい
点滴が漏れると刺し直しが必要なうえ、短い間隔での差し替えも必要
だんだんと点滴を入れる血管が確保しにくくなる
中心静脈栄養のメリット・デメリット
メリット
高カロリーの栄養を投与することができる
点滴漏れの心配が少ない
点滴の交換は1日1回程度で済む
デメリット
病院での手術が必要
感染症を起こすと、病院で抜去する必要がある
皮下点滴のメリット・デメリット
メリット
血管に刺さないため、何度も刺し直されることが少ない
自宅ですぐに始められる
デメリット
栄養はほとんどとれない(ある程度の水分補給は可能)
3. 何もしない
3つ目の選択肢は「何もしない」です。
前述のとおり、徐々に進行していく病気では、いずれ口から食べることが難しくなります。
なぜ「何もしない」を選ぶのでしょうか。胃ろうや中心静脈栄養は、病院で麻酔をかけて行う処置が必要です。栄養がとれるメリットと、処置にともなうデメリットを比べたとき、病気が治らないのであれば、それを自然な経過と受け止める考え方もあります。「これ以上つらいことはしたくない」「痛い思いをしてほしくない」という本人や家族の価値観を大切にした結果、何もしないという選択をされる方もいます。
何を優先するか
どの栄養法を選ぶかは、その後の人生に大きく関わります。
少し前には「胃ろうは本人の意思を無視して延命させる悪だ」といった否定的な論調が広がったこともありました。確かに、胃ろうによって必要な栄養が体に入れば、寿命を延ばすことにつながるでしょう。
しかし、どの方法にもメリットとデメリットがあり、一概に「これが良い」「これはダメ」と判断することはできません。
大切なのは、病気や介護の状況だけでなく、これまでの人生で大切にしてきたこと、そしてこれからの人生で何を大切にしていくかという、本人と家族の意思です。
正解を求めるのではなく最善を見つけるために、食べられなくなる前から、家族でお互いの価値観を話し合っておくことが必要です。
「明日地球がなくなるとしたら、最後に何を食べる?」というくらいの軽い気持ちでも構いません。まずは話し合ってみてください。――食べられなくなったとき、あなたはどうしますか?
参考文献
『治療』Vol.102 No.1(2020年)特集「摂食・嚥下障害の意思決定支援」(編集幹事:大浦誠)
執筆者 増田 翼(看護師)
※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。




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