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「うまく噛めない」ときの在宅リハビリテーション ― 噛む力を取り戻した事例から

執筆者の写真: 株式会社ネクスト 編集部
株式会社ネクスト 編集部
11 時間前
読了時間: 5分

執筆:増田 翼(看護師)

食べる機能には、「噛む機能」と「飲み込む機能」があります。「なんだか最近むせるようになった」「食事が飲み込みにくくなった」と、ご本人が自覚したり、介護している方が気づいたりすることがあると思います。

年齢を重ねると、脳血管疾患や認知症、パーキンソン病などの病気にかかりやすくなります。また、加齢によっても筋力が衰え、上手に食べられなくなることがあります。

飲み込みが悪くなったのであれば、のどを鍛える練習が必要です。しかし、その前段階である「噛む機能」が低下したときにも、飲み込みが悪くなったように感じることがあります。口の中に食べ物が残るようになった、唇から食べ物がこぼれるようになった、滑舌が悪くなった――このような様子が見られるときは、噛む機能が低下している可能性があります。

「噛む」は、歯と口の周りの共同作業

食べ物を噛むことを「咀嚼(そしゃく)」といいます。咀嚼は、歯で食べ物を噛み砕いて食べやすい形にするだけでなく、口の中で唾液と食べ物を混ぜ合わせることで、飲み込みやすい形にする働きもあります。

また、単に顎を上下に動かすだけではなく、舌や頬の内側を使って効率よく噛む、複雑な動きをしています。さらに、噛んでいる間は食べ物が口からこぼれないよう、唇をしっかり閉じている必要があります。

噛むという動作を餅つきにたとえると、お餅を杵でつく人(歯)と、それに合わせてお餅を返す人(唇・舌・頬・唾液)のような関係です。杵を下ろすタイミングが悪ければ返す人の手を叩いてしまいますし、ひたすら杵でついていても、返す人がいなければ、いつまでもなめらかなお餅にはなりません。

事例:脳梗塞の後遺症で噛めなくなったBさん

脳梗塞の後遺症によって上手に食事がとれなくなったBさんは、食事中にむせることも多く、退院した病院からは「口から食事をとるのは難しいので、鼻から管を入れて栄養をとります。ゼリーであればお楽しみ程度に食べてもよい」と言われていました。

訪問看護師としてご自宅にうかがい、飲み込みの様子を見せていただくと、痰も少なく、口の中の唾液は問題なく飲み込めている状況でした。さらに、歯は28本すべてご自身の歯で、歯並びも良い状態でした。

ところがBさんは、脳梗塞の後遺症で口の周りの筋肉に麻痺があり、食べ物を上手に噛むことができない様子でした。上手に噛めないまま、飲み込みにくい形で食べ物がのどに入ると、食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥」を引き起こすおそれがあったのです。

このような状況でしたが、ご本人・ご家族ともに「ご飯が食べたい」という希望があったため、医師と歯科医師に相談しながら、噛む訓練を始めました。

自宅でできる「噛む」練習

Bさんには、食べ物を噛む練習として、次の自主練習をお願いしました。

  • 唇をしっかり閉じるために、「いー」「うー」といった発声を繰り返す。ストローを唇で押しつぶす

  • 舌を動かすために、舌を前に出したり、唇をなめたりする

  • 上手に噛めるように、スルメを噛む

こうした訓練の甲斐もあって、Bさんは食べ物を上手に噛めるようになり、退院から3か月後には鼻の管も抜けて、今ではご家族と同じ食事をとることができています。

毎日の会話も、噛む力を保つトレーニング

上手に噛むための練習は自宅でも簡単に行えますし、老化による筋力の低下を予防することもできます。食事の前に、Bさんのように「いー」「うー」といった唇の運動をすると、効率のいい準備運動になります。

また、友人やご家族と話をすることも、実は噛む機能を維持するうえでとても重要です。声を出すと、口の周りをよく動かすからです。

最近は高齢者のひとり暮らしも課題になっています。ひとりで過ごしていると話し相手がいなくなり、口を動かす機会が減って、噛む機能にも影響を及ぼします。できるだけおしゃべりをして、たくさん笑い、口を動かすことが、上手に噛む練習になります。

Bさんも介護保険を利用してデイサービスに週3回通っていました。そこで出会う方々とのおしゃべりも、噛む力を取り戻す大切な機会になっていました。

食事の形は、噛む機能に合わせて段階的に

一度低下した機能を訓練で取り戻すことは大切ですが、食事の形を噛む機能に合わせて変えていくことも同じように重要です。Bさんも、リハビリテーションで徐々に上手に噛めるようになってきたため、食事の形を少しずつ普通の食事に近づけていきました。

とはいえ、「少しずつ普通の食事に近づける」といっても、目安がないと難しいものです。そのようなときは、農林水産省の「スマイルケア食」や、日本介護食品協議会の「ユニバーサルデザインフード(UDF)」の区分を活用してください。

Bさんの場合は、UDFの「かまなくてよい」からご家族に用意していただき、「舌でつぶせる」「歯ぐきでつぶせる」へと変更。さらに「容易にかめる」を経て、最終的にはご家族と同じ食事へと、段階的に変えていきました。

歯の治療・入れ歯の調整も忘れずに

噛むためには頬や舌の筋力を保つことが大切だとお話ししましたが、もちろん歯も重要です。入れ歯が合わない場合は、早めに歯科医院に相談しましょう。車いすでの生活が中心で通院が難しい場合は、自宅に来てくれる「訪問歯科」というサービスもありますので、ぜひ活用してください。

食事を楽しむうえで、食感を味わうことはとても大切な要素です。食感は上手に噛むことで感じられるものです。歯だけでなく口の周りの筋力を保つためにも、友人やご家族との会話を大切にしてください。もし「うまく噛めない」と感じることがあれば、医療の専門職に相談するとともに、口や舌の体操を取り入れてみてください。

執筆者 増田 翼(看護師)

※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。

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