車椅子ってどんな道具? ― 意外と知られていない選び方と使い方の注意点

執筆:栗原 俊介(福祉用具プランナー・福祉用具専門相談員)
皆さんは、車椅子がどんな道具かご存じですか。
この記事を読んでくださっている方の中に、車椅子を見たことがない、知らないという方は、おそらくいらっしゃらないと思います。今回は、そんな身近でありながら意外と知られていないことも多い、車椅子の用途や注意点についてお話しします。
車椅子の2つの用途 ―「運ぶ」と「座る」
まず、車椅子の用途を整理してみましょう。
真っ先に思い浮かぶのは、介助者目線の「運ぶ(移動)」という用途だと思います。もうひとつの用途が、ご本人目線の「座る」というものです。
大きく分けるとこの2つになり、どちらも大事な機能です。しかし日本では、「軽くてコンパクトな車椅子がほしい」という要望に表れているように、「運ぶ(移動)」に対する要求が多くあります。
これは、置き場所の問題に加えて、車椅子を選ぶ際に、ご本人よりも介助者の負担軽減に重きが置かれているからです。決して悪いことではなく、文化や住宅事情、道具が広まった背景によっても異なってくることです。
大切なのは、その道具がどのような意図でつくられ、ご本人や介助者にどのような影響を与えるのかを正しく把握することです。利点だけでなく欠点も知ったうえで、道具を選び、使っていきましょう。
「軽い車椅子」の利点と欠点
たとえば、軽い車椅子の利点と欠点を考えてみます。
軽い車椅子の利点は、折りたたんだ後に置き場所へ運びやすかったり、車へ積み込むときの負担が少なくなったりすることです。一方、実感しにくい形ではありますが、座り心地や押し心地が悪くなる傾向があるという欠点もあります。
軽い金属でつくられた車椅子はゆがみやすいため、介助者が押す力の一部がフレームをゆがませる力になってしまい、前に進む力に変わりにくいのです。そのため、「持ち上げるときは軽いけれど、平らな道を押すと重い」車椅子になってしまうことがあります。
また、座ったときにもゆがみやすいため、ご本人の体重によっては車椅子が変形してしまうこともあります。耐荷重にも注意が必要です。一般的な車椅子の耐荷重は100kgほどですが、軽量な車椅子の中には耐荷重80kgという製品もあります。
介助にも「後輪の大きい車椅子」がおすすめな理由
車椅子は大きく分けて、後輪が大きい「自走式車椅子」と、後輪が小さい「介助式車椅子」に分類されます。
後輪が小さいと場所を取らず軽くなるため、利用者さんが自分でこがない場合は、介助式車椅子が選ばれることが多くあります。
しかし実は、後輪が大きいほうが介助しやすいことをご存じでしょうか。ここで思い浮かべていただきたいのが、自転車です。
子ども用の自転車と大人用の自転車の大きな違いは、車輪の大きさです。同じスピードで進むとき、子どもはたくさんペダルをこいでいるのに対し、大人はゆったりこいでいる様子が思い浮かぶでしょうか。これは、ペダルを1回こいで進む距離が車輪の大きさに左右されるためです。つまり、車輪が大きいと、少ない力でたくさん進めるのです。
車椅子も同じで、後輪が大きいほうがまっすぐ進む推進力が大きくなるうえ、段差を越えやすくなるなどのメリットにもつながります。
つまり、置き場所や持ち上げることに問題がなければ、介助が目的の場面ほど、後輪の大きい車椅子のほうが介助者の負担は少なくなるのです。
タイヤの空気は、こまめに点検を
例にも挙げましたが、実は車椅子と自転車はとても近い構造をしています。
車椅子のタイヤは自転車とほぼ同じ構造なので、外出中にパンクした場合は、街の自転車屋さんに相談すると応急処置をしてもらえることも少なくありません。
また、タイヤに空気を補充することも、自転車と同じく大切なメンテナンスです。空気の少ない自転車はこぐのがとても重くなりますよね。車椅子も同じで、空気が少なくなると非常に重くなり、パンクの可能性も高くなってしまうので、適宜補充しましょう。
さらに、自転車と違って、車椅子にはタイヤの空気の量が影響する箇所がもうひとつあります。それは駐車ブレーキの効き具合です。
一般的な車椅子の駐車ブレーキは、レバーを引くとタイヤにバーが食い込んでブレーキがかかる構造になっています。そのため、空気が少なくなると食い込みが甘くなり、ブレーキの効きも甘くなってしまいます。
車椅子のブレーキが効かないと、立ち座りの際に車椅子が動いてしまい、思わぬ事故につながることがあります。注意してください。
「ちょっとの時間だから」が事故を招く
車椅子の事故で、ときどきニュースで耳にするのが、駅のホームからの転落事故です。
こうした事故でよくあるのが、「ちょっとの時間だから」と、介助者が車椅子から離れる際にブレーキをかけなかったというケースです。
平らな場所であれば問題ないかもしれません。しかし実は、駅のホームや道路には「水切り勾配」といって、水が自然に流れるように傾斜がつけられていて、完全に平らな場所はほとんどありません。そのため、介助者が手を離すと車椅子が自然に動き出し、ホームから転落したり、歩道から車道へ飛び出してしまったりする事故につながるのです。
このような事故を防ぐために、次のことを心がけましょう。
介助者が離れるときは、必ずブレーキをかける
万が一動き出したら危ない方向に対して、車椅子を横向きにして停める
道具の特性を知り、正しく使うことが、ご本人と介助者の健康を守ることにつながります。
執筆者 栗原 俊介(福祉用具プランナー・福祉用具専門相談員)
※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。




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