「何なら食べられる?」食事を出すときに考えたい、ちょっとの工夫

執筆:垣内 弘美(言語聴覚士)
食べることに困難を抱えている人や、その周りで食べることを支えている人は、「食べられる食べ物」について一度は考えたことがあるはずです。私たち言語聴覚士も、食べることを支える職業として、どんな食事であればその人が食べられるかを日々考えています。
専門職でさえ考え続ける内容なので、「食べられる食べ物」をひと言で答えるのは難しいものです。そこで今回は、実例をお伝えしながら、食べることに困難を抱えている人にやさしい食事を一緒に考えていきます。
突然ですが、想像してください
目の前に、70歳代のおばあちゃんがいます。一日をベッドの上で過ごしています。誤嚥性肺炎になったことはありません。食事は普通の人と同じ内容ですが、量は食べられません。食欲がないことが多く、日に日に痩せていっています。
さて、あなたならどうしますか。
一生懸命悩んで出した食事
情報が少なくて答えにくかったかもしれません。これは、当時中学1年生だった私が実際に体験したことです。
当時の私は、祖母に食べてもらおうと必死でした。夕食前におやつ感覚で何か作れないかと懸命に悩み、食に対する知識の乏しい頭で一生懸命考えて、次のものを祖母に作りました。
それは、おにぎりでした。一口でなるべく多くのカロリーをとれるようにと、手のひらに盛ったご飯を両手で力の限り握りつぶして三角形にしました。
さらに、少しでもカロリーが増えるように工夫をしました。鰹節を入れればたんぱく質もとれると思ったものの、万が一のどに貼り付いてはいけないと思ってあきらめました。代わりに、ご飯になじむ塩を食べられる限界まで大量に振りました。のりも巻きたかったのですが、これものどに貼り付くことを心配してあきらめました。
最後に、温かい状態で食べてほしかったので電子レンジで温めました。これでメインのおやつは完成です。それだけではありません。おやつに合わせる紅茶も忘れませんでした。甘党の私の好みで、砂糖は大さじ3杯入れました。
この2品を祖母のもとへ持っていき、「食欲のあるときに食べてね」とそっと置きました。
夕食の時間になり、お皿を下げに行くと、おにぎりは一口だけ食べられ、紅茶も少しだけ減っていました。
どんなメニューなら喜んでもらえたか
今になって当時の2品を思い出すと、ひどいものを出してしまったと後悔します。そして、今同じ状況だったら、どんな視点で食事を出すだろうかと考えることがあります。これは一つの例ですが、ほかの方にも当てはまる点があると思うので、考え方の参考にしてください。
「食べられる」ものを選ぶ
まず圧倒的に足りなかったのは、「食べられる」ものを選ぶという配慮でした。「食べられる」という言葉には、いくつかのとらえ方があります。大好きでいくらでも食べられる、嫌いだけれど食べることはできる、そして体の機能的に食べることができる(可能である)、というとらえ方もあります。
今回の例では、食事の形態の細かい調整は必要ありませんでしたが、食欲がないことを踏まえて、本人に食べたいものを聞き、その中から出せるのが理想でした。たとえ好きな食べ物でも、食べたいときとそうでないときがあるように、そのときどきに合わせて食べ物を選べば、食も進んだことでしょう。
栄養バランスを考える
次に、栄養バランスを考えるという点です。過度な塩分や糖分のとりすぎは、当然ながら避けたいものです。味にも影響が出ますし、長い目で見ると体にも悪影響です。
少しの工夫が、食欲を増す
後悔している点は多いのですが、よかった点もありました。
少量で高エネルギーをとる工夫
まずは、食べやすいサイズを考えた点です。ご飯を握りすぎて元の形から遠ざけてしまったことは良かったとは思いませんが、食が進まないことを考えて、少量で高エネルギーをとれるようにするという考え方は間違いではありません。鰹節も、のどに貼り付かない程度に細かくするなどの工夫をすれば、入れてもよかったでしょう。今では少量で高カロリーをとれるおかずやジュースも売られていますし、ご飯につけるペーストもいろいろな味が出ています。活用できるものは活用してください。
温かいものは温かく
また、ご飯を温めて出すことは、今でも大事にしています。できる限り温かいものは温かく、冷たいものは冷たく出すことで、食が進むからです。温めることで香りが立つものもあります。加齢とともに嗅覚が低下するという研究結果もあるため、高齢の方の場合はその可能性も考えて、香りを感じてもらう工夫が必要です。
「何の料理か」が分かるようにする
嗅覚とともに、視覚も食べ物を判断する重要な要素です。ペースト状の食事しか食べられないのであれば、ペーストにする前の形を見せてください。あるいは、言葉で伝わる方であれば、料理や食材の名前を伝えてください。
もしあなたの目の前に、茶色いドロドロとした食事がいきなり出されたら、食事かどうか判断するために、きっとにおいをかいだり、混ぜたりして中身を確かめるはずです。そして、それが何か推測できるまでは安心して食べられないはずです。何なのか分からないまま食べさせられても、「おいしい」とは思えません。このように、食べ物が何かを判断できることは、おいしく食べるためにとても大切なのです。
コミュニケーションをとりながら、一緒に
食べることを支えている方は、どんな食事ならおいしく食べてもらえるか、味や食事の形態を工夫しながら探していることでしょう。しかし、誰でも最初から専門的な知識があるわけではありませんし、勉強する時間も無限にあるわけではありません。知識が必要な部分は、専門職や相談できそうな人に遠慮なく聞いてください。
そして食事の際には、食事をする人とのコミュニケーションも忘れずにとってください。「今日は何が食べたい?」「お茶とジュース、どちらを飲みたい?」と話すだけでも、食事のための心の準備ができます。また、「食べたくない」と言われたときは、私は無理をさせず、その意思を尊重しています。
そのときどきのおいしい食事は、食べるご本人がいちばんよく知っています。食べることを支える方には、見た目や味、温度、食べ物の形を工夫し、コミュニケーションをとりながら、おいしい食事を一緒に作っていってほしいと思います。
執筆者 垣内 弘美(言語聴覚士)
※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。




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