誤嚥を防ぐ「とろみ」の付け方 ― とろみ剤を安全に使う5つのポイント

執筆:稲山 未来(管理栄養士)
飲み込みの機能が落ちてきた方には「飲み物にとろみ剤を使いましょう」と聞いたことはありませんか。では、なぜとろみが必要なのでしょうか。また、とろみが付きやすい飲み物と付きにくい飲み物があることはご存じでしょうか。今回は、とろみ剤について考えてみましょう。
誤嚥とは
私たちののどは、空気を肺まで送るための「気管」と、食べ物や飲み物を胃まで運ぶ「食道」という2つの道につながっています。
普段息をしているときは、気管の入り口を開けて食道を閉じていますが、「ごっくん」と何かを飲み込む瞬間だけ、気管にふたをして、代わりに食道を開きます。
試してみると分かりやすいでしょう。息を吸ったり吐いたりしながら「ごっくん」ができるでしょうか。どうしても一瞬、呼吸を止めなくてはいけませんよね。
加齢とともにのどの筋力が低下すると、飲み物や食べ物がのどに届くタイミングと、気管にふたをするタイミングがずれてしまうことがあります。タイミングがずれると、ふたの隙間から飲み物が気管に入り込み、最終的には肺まで届いてしまいます。
肺は本来、空気を取り込む器官なので、食べ物や飲み物が入ってくると異物と判断して炎症が起こります。これが「誤嚥性肺炎」、つまり誤嚥による肺の炎症です。
なぜ、とろみが必要なのか
水分は誤嚥しやすいため、誤嚥を予防するためには何らかの対策が必要です。
私たちののどには「嚥下反射」という反射の機能が備わっていて、気管の近くに食べ物や飲み物が近づいたときに、無意識に「ごっくん」と飲み込みます。転びそうになったときに、とっさに手が出るのと同じ仕組みです。
ところが加齢とともに、「気管の近くに飲み物が来た!」と気づいてから、のどが「ごっくん」と動くまでに時間がかかるようになります。そのため、のどを通過するスピードが速い飲み物では、「ごっくん」が間に合わなくなるのです。言い換えれば、流れるスピードを遅くすれば、ゆっくりした「ごっくん」でも間に合います。
飲み物にとろみを付けるとは、このように流れるスピードをゆっくりにするということです。
たとえば、傾けたまな板の上に、蛇口から水を流してみましょう。さらさらーっと流れ落ちますね。これが水の流れる速さです。では、同じ傾きのまな板に、今度ははちみつを流してみましょう。先ほどよりもゆっくり流れる様子がイメージできるでしょうか。
このように流れるスピードがゆっくりであれば、気管にふたをするタイミングを合わせやすくなるのです。
とろみ付けの注意点
とろみは飲み物の流れるスピードをゆっくりにするために使うものですが、上手に使わないと、かえって危険が増してしまうので注意が必要です。
先ほどのまな板に、今度はカスタードクリームを流してみましょう。流れるでしょうか。ベタベタとまな板にくっついてしまいますね。
とろみを付けすぎると、今度は「付着性」といって、のどに張り付きやすくなってしまうのです。飲み込む力が弱くなっているため、のどに張り付いたものを食道へ送り込めず、のどのあたりにずっと残ってしまいます。
最後に、粒の残ったイチゴジャムをまな板に流してみましょう。今度はイチゴの粒がまな板に残ってしまいますね。これは、とろみ剤が均一に混ざらず「ダマ」が残った状態と似ています。片栗粉のダマのようなこの状態も、のどに張り付きやすいのです。
さらに、とろみ剤のダマはベタベタとした球状なので、気管のふたの部分にピタッとくっついてしまうと、最悪の場合は空気の通り道がふさがれて窒息してしまいます。
とろみ剤はとても便利なものですが、上手に使わなければこのような危険がともなうのです。
とろみの付け方
とろみ付けの必要性と危険性が分かったところで、大事なのはとろみの付け方です。
とろみ剤は、最近ではドラッグストアでも販売されていますし、通信販売やインターネットでも購入できます。
いちばん大切なのは、使う前に、商品パッケージに書いてある使い方と使用量の目安をしっかり読むことです。そのうえで、次のポイントに気をつけましょう。
ポイント1:いつも同じ種類のとろみ剤を使う
とろみ剤は各介護食品メーカーから販売されており、メーカーや種類によって適切な使用量が異なります。「いつもと同じ量を使ったのに、濃くなりすぎてしまった」ということを防ぐために、いつも同じ種類のとろみ剤を使いましょう。
ポイント2:同じコップ、同じスプーンを使う
ポイント1と似ていますが、同じ濃さのとろみにするために大切なもうひとつのことは、量をいつも一定に保つことです。水分の量を一定に保つため、コップはできる限り同じものを使いましょう。同じように、とろみ剤を量るスプーンも同じものを使い、「このスプーンですりきり1杯」と決めておきましょう。
ポイント3:液体をスプーンで混ぜながら、少しずつ加える
とろみ剤を加えるときは、スプーンで液体を混ぜながら少量ずつ加えます。この手順をしっかり守ることで、ダマを防ぐことができます。「混ぜながら加える」は原則なので、覚えておきましょう。
ポイント4:一度付けたとろみを、後から濃くすることはできない
とろみを付けた後で、もう少し濃くしたいと思うことがありますよね。しかし、とろみが付いている液体にさらにとろみ剤を加えると、ダマになってしまいます。濃くしたい場合は、別の容器に濃いめのとろみ液を作り、もとの液体と混ぜ合わせるようにしましょう。
ポイント5:とろみが付きにくい飲み物もある
とろみ剤の使用量の目安は、多くの場合、お茶を基準に書かれています。塩分を含むみそ汁、たんぱく質を含む牛乳や栄養補助飲料、酸味のあるジュースなどは、とろみが付きにくい飲み物です。
「付きにくい」といっても、とろみが安定するまでに時間がかかるということです。こうした飲み物にとろみを付けるときは、「2度混ぜ法」がおすすめです。とろみ剤を加えて混ぜたら10分ほど置き、飲む前にもう一度よく混ぜます。時間を置くことで安定しやすくなるので、量を増やすのではなく、安定するまで待つことを心がけましょう。
まとめ
とろみ剤は、使用量によって濃さを変えることができます。そして、とろみの濃さはその方の飲み込みの機能に合わせることが大切です。どのくらいの濃さがよいかは、歯科医師や言語聴覚士など、飲み込みの機能を診る専門職に相談してみましょう。
誤嚥を防ぎ、おいしく食事を楽しむために、とろみ剤を上手に使いましょう。
執筆者 稲山 未来(管理栄養士)
※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。




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