手押し車と背中の関係 ― シルバーカーと歩行器の違いって何?

執筆:栗原 俊介(福祉用具プランナー・福祉用具専門相談員)
街なかを見渡すと、手押し車を押して歩いている高齢者を必ず見かけませんか。実はこの手押し車は、大きく分けて「シルバーカー」と「歩行器(歩行車)」の2種類に分類されています。
見た目はほとんど同じ道具ですが、目的や対象者、体が受ける影響が違うことは意外と知られていません。そのため、シルバーカーは介護保険の対象ではなく、介護保険の対象となるのは歩行器のみです。今回は、この似ているけれどもまったく別の2つの道具についてご紹介します。
シルバーカーは「自立して歩ける人」のための道具
シルバーカーの対象者は、「自立歩行が可能な方」とされています。そうした方がより安定して歩けるように、荷物を運んだり、休むときに腰掛けたりするための道具がシルバーカーです。乱暴に言えば、シルバーカーは台車の親戚のようなものです。
歩行が不安定な方が台車を押しながら歩いていたら、どう思いますか。見ていてハラハラしてしまいますよね。つまり、シルバーカーがないと歩けない方は、すでにシルバーカーの対象者ではないのです。
歩行器は「体重を支える」構造をもつ福祉用具
歩行が不安定な方を対象にした福祉用具は、歩行器です。歩行器の定義の一部を紹介すると、「歩行が困難な者の歩行機能を補う機能を有し、移動時に体重を支える構造を有するもの」とされています。歩行が不安定で転びそうな方の体重を、体の代わりに支える構造でなければならない、ということです。
逆に言うと、シルバーカーにはこの機能がありません。歩行器は正しく使えば、横にバランスを崩しても倒れにくい構造ですが、シルバーカーは体と一緒に簡単に横へ倒れてしまいます。さらに、体ひとつで転ぶよりも、シルバーカーを巻き込みながら転ぶほうがけがにつながりやすいため、より注意が必要です。
道具は「良い・悪い」ではなく「適・不適」で選ぶ
このような話を聞くと、「シルバーカーは悪い道具、歩行器のほうが良い道具!」という声が聞こえてきそうですが、決してそうではありません。福祉用具や介護用品を含め、道具はすべて、良い・悪いではなく、適・不適で選ぶ必要があります。
じゃがいもの皮をむくのに、はさみを使う人はいませんよね。「刃物」という機能をもっているからといって、はさみでじゃがいもの皮をむこうとすればむきにくく、けがをするかもしれません。一方で、肉を切るときなどには、はさみを使う方も増えてきています。私たちは身近な道具であれば、目的に適しているかどうかを無意識に判断して選んでいます。
シルバーカーと歩行器も、道具であるという点は同じです。何のために使うのか、使う方の状態に適しているのかなどを判断して選んでいくことが重要です。ご自分やご家族で判断できない場合は、お近くの地域包括支援センター(地域によって名称が異なります)や、福祉用具専門相談員などの資格をもつ専門家に相談してください。
見分け方は「ハンドルの向き」
次に、2つの道具の見分け方と特徴を解説します。いちばん分かりやすいポイントは、ハンドルが台車のように「横向き」か、自転車のように「縦向き」かという点です。横向きハンドルの製品がシルバーカー、縦向きハンドルの製品が歩行器です(すべてではありません)。
ハンドルの形が違うと、持つ人の手の位置が変わります。つまり、歩く姿勢が変わってくるのです。この点が、介護保険の対象になるかどうかのポイントのひとつになります。
横向きハンドル(シルバーカー)は猫背になりやすい
横向きのハンドルを持つと、肩が内側に入り、背中が丸まって猫背のようになります。台車を押しているときの姿勢を思い浮かべてみてください。シルバーカーは台車と同じ構造をしているため、歩く人の姿勢も同じようになるのです。
「猫背で歩くのは良くないから」と、シルバーカーのハンドルを高くしてほしいという要望をいただくこともあります。しかし、ハンドルを高くしても、歩くときは腕が前に出て肩が内側に入るため、どうしても猫背になってしまう構造なのです。
縦向きハンドル(歩行器)は背すじを伸ばして歩ける
一方、縦向きのハンドルをもつ歩行器は、手を体の横に置くことができます。手をその位置にして歩くと、胸を張り、背すじを伸ばして歩けるようになります。
また、この位置では体の重心が歩行器の「支持基底面」の中に入るため、安定して歩くことができます。支持基底面とは、歩行器やシルバーカーのタイヤや脚を線で結んでできる面のことで、この中に使う人の重心があると倒れにくく、安定します。シルバーカーや台車は、この支持基底面の中に使う人の重心を入れることができない構造のため、一緒に倒れてしまうのです。
つまり歩行器は、正しく使えば、良い姿勢で安全に歩くことができる構造をもっているといえます。ただし、体の横に歩行器があるということは、体よりもひと回り以上大きいということでもあります。コンパクトで軽量にはならないのです。狭くて段差の多い場所で使いたい場合には適さない製品となるため、目的と体の状態に加えて、どのような場所で使うのかも大事なポイントになります。
背中を丸める・伸ばす、さまざまな姿勢を
日々どのように過ごしているかは、体にさまざまな影響を与えます。猫背のまま過ごしていると、背中が丸まった形で固まってしまい、「円背(えんぱい)」という状態になります。円背の姿勢は、転倒や誤嚥性肺炎、床ずれなど、さまざまな問題の要因になります。
日々の過ごし方の中で円背を予防することは、将来起こるかもしれない問題の予防につながります。シルバーカーを使って猫背気味に歩くことが多い場合には、生活の中に背中を伸ばす動きを取り入れるなど、1日24時間の中で、背中を丸めたり伸ばしたり、さまざまな姿勢をとることを意識していただければ幸いです。
参考
執筆者 栗原 俊介(福祉用具プランナー・福祉用具専門相談員)
※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。




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