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食べられないのに、口腔ケアは必要なの? ― 口から食べていない人ほど大切な理由

執筆者の写真: 株式会社ネクスト 編集部
株式会社ネクスト 編集部
11 時間前
読了時間: 5分

執筆:三好 早苗(歯科衛生士)

皆さんは、「口腔ケア」がどんなケアかご存じですか。

口腔ケアと聞くと、ほとんどの方が歯ブラシで歯を磨くことを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし口腔ケアとは、歯を磨いて口の中を清潔に保つことだけではありません。話す、食べる、表情をつくるといった、口の機能を引き出すことでもあります。

口腔ケアには、歯磨きのほかにも、専用のブラシで舌や粘膜(頬の内側や歯ぐきなど)をきれいにしたり、口の周りや舌の筋肉をマッサージしたり、ストレッチしたりすることも含まれます。介護施設では、口腔ケアの一環として、食事の前に口の体操を行うところもあります。口腔ケアは、誤嚥性肺炎やインフルエンザの予防に効果があると報告されています。

介護が必要な高齢者は、口の機能が低下し、口の中が不潔になりがちです。また、自分で歯磨きをしていても、麻痺があったり認知症が進んでいたりすると、うまく磨くことができません。免疫力が低下しやすい高齢者は、感染症を予防するためにも口腔ケアが必要です。

食べられない人に、口腔ケアは必要ない?

口から食事をしていない方のご家族から、「口の中は汚れていないので、歯磨きはしなくていいですか?」と聞かれることがあります。しかし、これは誤解です。

口から食事をとっていないと、噛む刺激がないため唾液の分泌が減り、口の中が乾燥していきます。また、唾液が減ると、口の中をきれいにする働き(自浄作用)が低下するため、口の中が汚れていきます。

もともと口の中にはさまざまな細菌が住んでいますが、口の中が汚れると細菌のバランスが崩れ、さらに細菌が増えていきます。つまり、食事をしていない人ほど口の中は乾燥して汚れ、細菌が増えてしまうのです。そのため、食べられない人ほど、こまめな口腔ケアが必要になります。

事例:最期まで父のためにできたこと

ヨシオさん(80代男性)は、肺炎をきっかけに寝たきりになりました。話すことも食べることもできなくなり、在宅の主治医からは「もう長くは生きられない」と告げられていました。

ひとり娘のユリさん(50代)は、「何もできなくなった父に、一体何をしてあげればいいのだろう」と悩んでいました。

ある日、訪問歯科診療で訪れた歯科衛生士から、「ヨシオさんの口の中がひどく乾燥しているので、こまめな口腔ケアが必要です。手伝っていただけませんか」と頼まれました。

ユリさんは、「食べることもできなくなったのに、どうしてまだ口腔ケアが必要なの?」と疑問に思いました。しかし歯科衛生士の説明によると、お父さんの口の中は乾燥によって細菌が増え、痰(たん)や粘膜の汚れがこびりついて、呼吸がしづらくなっているとのことでした。

ユリさんは歯科衛生士から口腔ケアの方法を教わり、毎日4〜5回、スポンジブラシと保湿剤を手に、口の中を潤すようにしていきました。

はじめは口腔ケアを怖がっていたユリさんでしたが、だんだんとやり方やタイミングを覚え、週に1回訪れる歯科衛生士に、口の乾燥の状態や呼吸の変化などを相談するようになりました。

歯科衛生士とユリさんは、約1か月半にわたって口腔ケアを続けました。ヨシオさんが亡くなった後、ユリさんは「私にも、最期まで父のためにできることがあってよかった」と話してくれました。口腔ケアを通じて、最期まで父親を介護できたことに、充実感を感じていたのです。

口腔ケア用品は、口の状態に合わせて選ぶ

口腔ケアで最も重要なポイントは、その人の口の状態に合った口腔ケア用品を選び、適切なケアをすることです。

現在では、ドラッグストアやインターネットでも多くの口腔ケア用品が販売されています。しかし、それぞれの目的や用途を理解していないと、効果は半減してしまいます。

スポンジブラシ

ユリさんが使った「スポンジブラシ」は、棒の先に小さなスポンジが付いたもので、粘膜の汚れを落とすために使います。スポンジブラシでは歯についた歯垢(細菌の塊)は取り除けないため、歯が残っている場合は、歯ブラシも使う必要があります。

保湿剤

口の中が乾燥している場合は「保湿剤」を使います。乾燥した状態で口腔ケアを始めると粘膜を傷つける可能性があるため、ケアの前に保湿をする必要があります。保湿剤には、ジェルタイプやスプレータイプなど、さまざまな種類があります。

ヨシオさんの場合は、スプレータイプの保湿剤を使いました。スプレータイプは、口腔ケアを初めて行う方でも使いやすいのが特徴です。ただし、ジェルタイプに比べると保湿力がやや劣るため、こまめなケアが必要になります。

このように、その人の口の状態と介護する方の技術に合わせて、ケア用品と頻度を考えることも大切です。

まずは歯科医師・歯科衛生士に相談を

人それぞれ顔が違うように、口の中の状態も一人ひとり違います。特に高齢者の場合は、入れ歯を使っている方、歯周病が進んで歯がグラグラしている方、歯がたくさん残っている方、口が開きにくい方など、状態は多岐にわたり複雑です。高齢者のほとんどは、口の中に何らかの問題を抱えているといっても過言ではありません。

口腔ケアを始める際には、「何を、どのように使ってケアをすればよいか」を、かかりつけの歯科医院や、訪問歯科診療を行う歯科医師・歯科衛生士に相談して、指導してもらうことをおすすめします。

食べられない人に口腔ケアが必要であることは、まだまだ知られていません。食事ができなくなったとしても、口の中を乾燥させないためのケアや、さまざまな感染症を防ぐためのケアが必要であることを知っておいてください。

そして、いつかは誰もが、お別れをしなければならないときが来ます。そのとき、できるだけ苦しまず、穏やかに旅立ってほしいと願うのが、ご家族の思いではないでしょうか。そのためにも、口のケアが役立つことを心に留めておいてください。

執筆者 三好 早苗(歯科衛生士)

※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。

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