服薬のタイミングがずれてしまったときに大切なこと ― 薬を飲み忘れたらどうする?

執筆:齋藤 直裕(薬剤師)
体の不調があったり、病気をしたりして服用を続けるように言われている薬の多くは、毎日飲むものです。皆さん、飲み忘れないようにさまざまな工夫をされていると思います。
それでも、今日飲む分を用意しておいたのに、忙しい毎日の中でほかのことに気を取られ、飲み忘れに気づいたら次の食事の時間になっていた――。生活をしていると、うっかり飲み忘れてしまい、気づいたときにどうすればよいか判断に迷うことがあるのではないでしょうか。
「1日に飲む量が決まっているなら、2回分をまとめて飲んでもいい?」「飲み忘れても何も起こらないから、飛ばして次の分から仕切り直せばいい?」「とりあえず今飲んで、次の食事の時間をずらせばいいかな?」――本当に、それは正しい判断でしょうか。
一般的には、「2回分を一度に飲まないでください」「気づいたときに飲み、次の服用時間が近いときは1回分を飛ばしてください」などと説明されることが多くあります。しかし実際には、1日1回の薬、1日2回の薬、食前に飲む薬など、服用のタイミングもさまざまなので、すべての薬に同じ対処法が当てはまるわけではありません。
なぜ、薬によって服用回数が違うのか
薬は飲んですぐに効くわけではなく、しばらく経ってから効果があらわれます。口から入った薬は胃腸から吸収され、肝臓で一度分解(代謝)された後、血液に乗って全身に行き渡り、効果を発揮します。
その後、薬の成分は血液とともに体の中を何度も巡りながら、尿や便として体の外に出され、効果はだんだん薄れていきます。つまり、血液中に薬があるうちは効果があり、それが薄れていくと効果がなくなっていくのです。
この血液中の薬の濃さを「血中濃度」といい、薬を飲む量やタイミングによって大きく変わります。
たくさん飲めば、たくさん効く?
では、たくさん飲めば薬はよく、長く効くと思われるかもしれません。お酒を例にすると分かりやすいでしょう。
体に入ったお酒は胃や腸で吸収されて血液に入り、一度肝臓で分解されてから全身を巡ります。気分がよくなるのを「効果」と考えると、飲んでから徐々に効果が出てきます。その後、血液に乗って体を巡り、排泄されるにつれて、酔いはどんどん覚めていきます。
しかし、飲み続けたり大量に飲んだりすると、人によっては眠くなったり気分が悪くなったりと、狙っていない作用(副作用)が出てきます。薬も同じで、たくさん飲めば副作用のリスクが高まります。
ここで、効き目の早さを決めるのは「吸収」、効き目の強さを決めるのは「血中濃度」、効き目が続く時間を決めるのは「代謝(分解)」と、尿や便からの「排泄」です。体から効き目が消えないうちにさらにお酒が追加されると、血中濃度はどんどん上乗せされ、吐いたり眠くなったり、記憶をなくしたりといった好ましくない作用が出る可能性が高くなります。
「適量」は人それぞれ
ただし、少量のお酒でも酔ってしまう人もいれば、たくさん飲んでもまったく変わらない人もいます。その差には、肝臓での分解(代謝)の違いが大きく影響しています。
お酒(アルコール)は、肝臓にある分解酵素の働きによって、最終的には水と炭酸ガス(二酸化炭素)にまで分解され、アルコールとしての作用がなくなっていきます。この分解酵素の量や働きには個人差があり、お酒に強い・弱いといわれるのは、この違いによるものです。
お酒でも薬でも、人種や性別、年齢、体格、そして解毒を担う肝臓や排泄を担う腎臓の機能などによって、体への影響は人それぞれです。だからこそ、一人ひとりに「適量」があるのです。
薬の量や回数は、どのように決められているのか
薬の服用回数は、効き目が続く時間によって決められています。1回飲めば丸1日効果が続くものは1日1回、半日で効果が切れてしまうものは1日2回、8時間程度効くものは1日3回、といった具合です。
成分として体に長く残るために効き目が長いものもあれば、胃腸で少しずつ溶け出して長く効くよう、薬の形そのものに工夫を施して服用回数を減らしているものもあります。
医薬品の使い方は、承認の段階で多くの臨床試験を行って決められています。病気の症状や体の状態、年齢、体格などに合わせ、膨大なデータから万全を期して目安が設定されていますが、それでも人の体のことなので、予想外のことも起こります。
そのため、多くのデータから導き出された量とタイミングで薬を飲んでいただき、狙った効果が出ているか、副作用のような不都合はないかを、その後の診療の中でその都度確認していきます。
飲み間違いが及ぼす影響
どんなに優れた薬でも、飲み忘れなどで体に入らなければ効果は期待できません。また、間違えて2回分など決められた量より多く飲んでしまうと、好ましくない作用が出ることも考えられます。
さらに、正しく服用できていないと、診察の際に医師がその薬が適切かどうかを判断できなくなってしまいます。正しく服用することは、良い効果を引き出して副作用を防ぐだけでなく、正しい治療方針を立てることにもつながる――そのことを知っておくとよいでしょう。
飲み忘れに気づいたときは
飲み忘れに気づいても、慌てなくて大丈夫です。腰痛のために飲んでいる痛み止め、熱が出て飲み始めた抗生物質、血圧が高いといわれて飲んでいる血圧の薬……。実は、飲んでいる薬によって「飲み忘れ」の意味合いや影響はまったく変わってきます。そのうえで、薬の特性を踏まえて判断することになります。
たとえば、1日1回朝食後に飲む「痛み止め」であれば、思い出したときに飲んでいただきますが、胃への負担を考えて、昼食後に飲めるなら飲む、夕方になっていたら飲まずに翌日からまた1回分を飲む、という判断になります。この場合、飲み忘れたときに考えられるリスクは「腰の痛みが出る」といったものです。
専門家としてのアドバイス
薬局で薬を受け取る際には、飲み忘れたときの対処法を確認しておくことをおすすめします。また、ご家庭で日々どのように飲んでいるのか、服用のタイミングはどうなっているのかも薬剤師に伝えていただき、その飲み方で問題がないかも確認しておきましょう。
そして何よりも、「何のために」「どんな」薬を飲んでいるのかを正しく理解しておくことが、いざというときに大切になります。
執筆者 齋藤 直裕(薬剤師)
日本大学薬学部薬学科卒業。公認スポーツファーマシスト。在宅医療に積極的に取り組む訪問薬剤師(執筆時点)。
※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。




コメント