食事に2時間かかるときはどうする? ― 「食べることは短期決戦」と栄養の補い方

執筆:稲山 未来(管理栄養士)
私は、訪問歯科に所属する在宅訪問管理栄養士です。仕事柄、「食べること」「飲み込むこと」に悩む方のお話を聞く機会が多くあります。
今回は、よく聞くお悩みについて、実際の事例をもとに対策をお伝えします。
「食べるのに時間がかかる。でも、栄養はしっかりとってほしい!」――そんなお悩みを抱える方は多いのではないでしょうか。私はこうしたお悩みに対して、「食べることは短期決戦! 足りない栄養は効率的にとる」とアドバイスしています。具体的にどういうことか、ご説明していきましょう。
在宅訪問栄養食事指導とは
皆さんは、「在宅訪問栄養食事指導」という言葉を聞いたことがありますか。病院に通うことのできない高齢者や、体に障害を抱えた方のために、管理栄養士がご自宅にうかがって栄養指導を行うサービスです。
事例:「食事に2時間かかる」というお悩み
ある日、医院にこんな相談がありました。
「食べる機能が落ちたようで、食事に2時間かかります。食事が終わるとすぐに次の食事が始まり、一日中食べているような状態です。食べる機能を診てもらい、しっかり食べられるようになるためのリハビリなどを教えてほしい」
食べることについてのお悩みだったので、歯科医師とともに管理栄養士もうかがうことになりました。
時間をかけてでも、食事を食べきるべき?
歯科医師が飲み込みや口の機能を診ている間に、管理栄養士は、その方が何をどのように召し上がっているのかをご家族にうかがっていきます。
その方は、家族と同じ食事を一口大程度にカットして召し上がっていました。噛んでいる時間が長く、以前と同じくらいの量を食べるのに2時間もかかってしまうということでした。
ここでまず考えなくてはいけないのは、「2時間かけてでも、以前のように食事を食べなければならないのか?」という点です。
「2時間もずっと食べているなんてかわいそう」という意見もあれば、「でも食べなければもっと痩せてしまう。頑張って食べなくちゃ」という意見もあるでしょう。
時間をかけることの弊害
食べるときは、まず食べ物を口に入れてモグモグと噛み、そしてごっくんと飲み込みます。モグモグには顎や頬の筋肉、ごっくんにはのどの筋肉を使っています。
そのため、食事の時間が長くなるほど、もともと体力の少ない高齢者は疲れてしまいます。私たちもスクワットを何度も続けていると、疲れて動きがスムーズでなくなったり、十分に深く膝を曲げられなくなったりしますが、それとまったく同じ状況です。
食べる時間が長くなればなるほど、噛む力も飲み込む力も落ちてしまいます。その結果、自分の持っている「食べる・飲み込む」能力を十分に発揮できず、食べ物が誤って気管に入る「誤嚥」や、気管の入り口に詰まって息ができなくなる「窒息」のリスクが高まってしまうのです。スクワットのしすぎで、ついには転んでしまう――そんなイメージでしょうか。
ですから、大事なポイントの1つ目は、体力も持久力も落ちている高齢者だからこそ、食べることは短期決戦!ということです。
適度な食事の時間は30分程度です。1時間以上かかってしまう場合は、食事の内容を見直しましょう。
足りない栄養をどう補うか
短期決戦で食べるといっても、どんどん口に詰め込むわけにはいきません。必然的に食べる量は減り、とれる栄養も減ります。その場合は、食事とは別の方法で栄養をとる必要があります。主な方法をご紹介します。
主治医に栄養剤を処方してもらう
体重の減少が著しい場合や、もともと栄養が不足している場合は、主治医に栄養剤の処方について相談しましょう。低栄養状態と診断されれば、お薬として飲む栄養剤を処方してもらえることがあります。
市販の栄養補助飲料を利用する
最近は、ドラッグストアでも栄養補助飲料が売られていることが増えてきました。介護食品のコーナーをのぞいてみましょう。栄養価の高い飲み物が売られているので、そうした飲料を試してみるのも一つの方法です。
食事そのもののカロリーを上げる
飲み物でもこれ以上たくさん飲めない場合や、甘いものが苦手で栄養剤の味が好みに合わない場合は、食事の内容を変えずにカロリーを上げる工夫をしましょう。
いちばん簡単で手軽なのは、油を活用することです。油はとても効率のよいエネルギー源です。献立に炒め物を取り入れたり、煮物を揚げ煮に変えたりすることでカロリーを上げられますし、和え物にオリーブオイルを少しかけるといった方法もあります。
間食をとる
「少量頻回食」といって、一度にたくさん食べられない場合は、少量ずつ複数回に分けて栄養をとればよいのです。朝ご飯を食べて少し休んだら、10時に果物を食べる、おやつにお菓子を食べるなど、時間を置きながら少しずつエネルギーをとる方法も試してみましょう。
この方へのアドバイス
これらを踏まえて、食事に2時間かかってしまうこの方には、次のようなアドバイスをしました。
食事の量を、1時間で食べきれる程度に減らす
不足するエネルギーは、ドラッグストアなどで売っている栄養補助飲料で補う
噛むことに疲れてしまうのであれば、体力が回復するまでは、なるべくやわらかいものを用意する
まとめ
体力の落ちた高齢者は、食事の時間が長くなるほど、疲労によって噛んだり飲み込んだりする能力が落ちてしまいます。食事は1時間を超えないようにしましょう。そして、食事量が少なくなる場合には、食事以外からも栄養をとる工夫をしてみてください。
執筆者 稲山 未来(管理栄養士)
※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。




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