「食べにくい」と感じたら、食べる環境を整えよう ― 食支援の現場から⑤

執筆:五島 朋幸(歯科医師)
口から食べるためには、大きく2つの要素が必要です。ひとつは口から食べる「機能」、もうひとつはそれを取り巻く「環境」です。
噛む動きや飲み込むためののどの動きなど、食べる機能が十分にあるうちは、環境のことをあまり考えなくても困りません。しかし、いったん食べる機能が低下すると、周りの環境を整えることで、食べることを維持できる場合があります。
ちょっと意外でしょうか。食べるための環境とは何でしょうか。そして、環境のプロフェッショナルがいることをご存じでしょうか。今回は、食べる環境についてお話しします。
食べる環境と機能
皆さんはしっかり噛んで食べられていますか。おそらく、そんなに苦労している方はいないと思います。もしかすると、虫歯があって食べにくいという方はいるかもしれませんが。
スタンドカレー店で水を飲んでみる
スタンドカレーのお店などには、座面がとても高い椅子がありますよね。途中に足置きがあるので、普段はそこに足を乗せて食事をしますが、あえて足をぶらぶらさせたまま水を飲んだらどうなるでしょうか。ぜひ今度試してみてください。
水は飲めるのですが、意外と力がいるものです。また、思いきり上を向いてつばを飲んでみてください。とても飲みづらく、ゴクッという音が出るかもしれません。
お店で椅子に座ったとき、テーブルが妙に高いと感じた経験はありませんか。腕の位置が上がってしまい、食べ物が少し取りづらくなります。気づいたら、いつもよりテーブルを汚していたかもしれません。
もっと単純な例もあります。いつも食事をしているテーブルで、椅子をいつもより20センチ後ろに下げたらどうでしょう。あるいは、菜箸しか置いていなかったら? とても食べにくいですよね。これらはすべて「環境」なのです。
食べる姿勢や体勢、道具などはとても重要で、それらが適切でないと食べられなくなる人が出てきます。口から食べることが難しい方を支援するときは、ぜひ環境に目を向けてみましょう。
食事の姿勢を見てみよう
食の支援が必要になったら、まずはどのような状態で食べているのかを確認しましょう。いつもの椅子とテーブルで食べている方もいれば、車いすの方、さらにはベッドの上で食べている方もいます。
それぞれのケースの細かな対応は各分野のプロフェッショナルに任せるとして、ここではチェックポイントを3つ挙げておきます。
1. 足の置き方
スタンドカレーの例のように、足をぶらぶらさせた状態は飲み込みにくい姿勢です。椅子でもベッドでも、足の裏がしっかり床や足置きについて安定しているかを見てみましょう。
2. 首の角度
上を向いてつばを飲むのは大変でしたね。顎が上がってしまうと飲みにくいだけでなく、誤嚥(食べ物や飲み物、つばなど、本来は食道に入るものが気管に入ってしまうこと)や窒息を起こしやすくなります。
3. 食べ物との位置関係
箸やスプーンで食べようとしても、料理に届かなかったり、見えなかったりすることがあります。よくある例ですが、小柄なおばあさんが車いすに乗ったまま通常のテーブルで食事をすると、料理が目線の高さ近くになってしまい、よく見えないうえに自分で料理を取れない、ということが起こります。
「食事」という環境
口から食べる機能が低下した方のために、「介護食」「やわらか食」「きざみ食」「ミキサー食」などがあることをご存じでしょうか。「とろみをつける」という方法もありますね。
これらは、食べる機能が低下した人でも食べられるように工夫されたものです。どれが良い・悪いというわけではなく、その方の機能に応じて選ぶ食事の種類です。たとえば、噛む力が弱くなって硬いものが難しくなった方には「やわらか食」、飲み込む機能が低下した方には「とろみをつける」といった具合です。
では、今の食事が適切かどうかは、どう判断すればよいでしょうか。もちろん専門職による評価は必要ですが、最初のチェックポイントとして覚えておいてください。1回の食事時間が30分を超えるようになったら、今の食事の形態では食べづらくなっていると考えましょう。
その他の環境
ほかにも考えたい環境があります。たとえば認知症の方の中には、食事中にテレビがついていたり、近くに人がいたりすると、食事に集中できない方がいます。
もちろん、入れ歯の調子が悪くて食べられないというのも、お口の「環境」の問題です。環境の問題は本当にケースごとにさまざまです。食べにくそうにしていたら、よく観察してみましょう。
環境のプロフェッショナルに相談を
では、こうした環境の問題は誰に相談すればよいのでしょうか。ケースによって異なりますが、主な相談先は次のとおりです。
理学療法士
理学療法士は、まさに姿勢のプロフェッショナルです。食事の姿勢についても一緒に考えてくれます。
福祉用具専門相談員
福祉用具専門相談員は、介護環境のプロフェッショナルです。テーブルや椅子だけでなく、車いすや介護用ベッドについても豊富な知識を持っています。
作業療法士
食べる動作などに問題があれば、作業療法士が力になります。その方の状況に応じて、必要な情報や道具を教えてくれるでしょう。
言語聴覚士・管理栄養士
食事の形態については、歯科医師や言語聴覚士だけでなく、管理栄養士も力になってくれます。歯科医師や言語聴覚士が食べる機能を評価し、それに合わせた食事を考えてくれるのが管理栄養士です。
最後に
このように、口から食べるためには、ご本人の機能だけでなく環境の調整も必要です。そして、そこには頼れる専門職がたくさんいます。
「この問題は、この人に相談しなければならない」と決まっているわけではありません。多くの地域で、専門職による食支援のネットワークができています。何か困ったことがあれば、とにかく声を上げてください。きっと適切な人につながるはずです。
執筆者 五島 朋幸(歯科医師)
1965年広島生まれ。1991年日本歯科大学歯学部卒業。1997年に訪問歯科診療に取り組み始める。2003年 ふれあい歯科ごとう代表。博士(歯学)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、日本歯科大学東京短期大学歯科衛生士科講師、東京医科歯科大学非常勤講師ほか。新宿食支援研究会代表。2003年よりラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」のパーソナリティーを務める。著書に『口腔ケア○と×』(中央法規出版)、『訪問歯科ドクターごとう① 歯医者が家にやって来る!』(大隅書店)など。(プロフィールは執筆時点のものです)
※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。




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