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転倒を予防しよう ― 高齢者の歩行と入れ歯の意外な関係

執筆者の写真: 株式会社ネクスト 編集部
株式会社ネクスト 編集部
11 時間前
読了時間: 5分

執筆:藤巻 弘太郎(歯科医師)

高齢の方やそのご家族にとって、転倒は寝たきりにつながりかねない重大な事故です。その危険性を前もって知り、対策をしておくことが大切です。

年齢を重ねると、筋力の低下や歩行障害、視力の衰えなど、さまざまな要因が重なって、体のバランスを保ちにくくなっていきます。さらに高齢になると、これらの要因に加えて病気や服薬によって転倒のリスクが高まり、思わぬ場所で事故が起こることもあります。

今回は、歯科の観点から、高齢者の転倒予防につながるお話をお伝えします。

50歳を過ぎると、歩く速さは少しずつ落ちていく

皆さんはご存じでしたか。50歳を超えると、歩く速さは徐々に低下していきます。その低下は、60歳以降、年平均1%程度といわれています。たかが1%と侮ってはいけません。

加齢にともなう歩行速度の低下には、歩数の減少よりも歩幅の減少が大きく関わっているといわれています(文献1)。また、速く歩こうとするとき、若い人は歩幅を広げる傾向がありますが、中高年の人は主に歩数を増やして対応することが分かっています(文献2)。

中高年者は両足で体を支える時間の割合が大きいため(文献3)、高齢になるほど歩行中に両足が地面から離れる時間は減っていき、若いころと比べて、すり足のような歩き方に見えることが増えていきます。

近年では、歩行中の一歩一歩のばらつき、つまり歩く速さや歩幅、足の運び、両足で体を支える時間などのばらつきが高齢になるほど大きくなり、それが転倒のリスクにつながるとして、積極的に研究が進められています(文献4・5)。

歯の状態と転倒の関係

では、こうした歩行と転倒の問題に、歯科からはどのようなアプローチができるのでしょうか。

研究1:歯の本数・入れ歯の有無と、バランス・歩行能力

地域に住む高齢者205名(平均年齢74.1±4.5歳、男性49.8%)を対象に、歯の状態(残っている歯の本数と入れ歯の使用の有無)と、身体機能や転倒経験との関連を調べた研究があります(文献6)。

その結果、地域在住高齢者の身体機能は歯の状態によって異なり、さらに歯の状態と転倒経験には関連があると考えられること、特に「残っている歯が19本以下で、入れ歯を使っていない」高齢者では、バランス能力や歩行能力の低下が生じており、転倒リスクが高い可能性があることが報告されました。

少し詳しくお伝えすると、対象者を次の3つのグループに分けて比較しています。

  1. 残っている歯が19本以下で、入れ歯なし

  2. 残っている歯が19本以下で、入れ歯あり

  3. 残っている歯が20本以上

その結果、1のグループは3に比べて体の揺れが大きく、2に比べて5mの歩行にかかる時間が長かったこと、そもそも1のグループは2・3に比べて過去に転倒した人の割合が高かったことなどが報告されています。

かみ砕いて言えば、「歯が19本以下で入れ歯を使っていない人は、歯が20本以上ある人に比べて、転倒リスクが最大で約2.5倍になる」ということです。

研究2:認知症高齢者の噛み合わせと転倒

また別の研究では、転倒リスクの高い認知症高齢者を対象に、過去1年間の転倒状況と噛み合わせの状態との関係を調べ、噛み合わせの維持・回復が転倒予防につながるかを検討しています(文献7)。

対象は、入院中で自力歩行が可能な認知症高齢者146名です。認知機能の評価、アルツハイマー病の割合、服薬状況に差がない条件で、左右の小臼歯・大臼歯の噛み合わせの状態によって、「自分の歯で噛み合わせが保たれている群」「入れ歯で噛み合わせが保たれている群」「噛み合わせがない群」の3群に分けて調査しました。2回以上転倒した人は41名、1回以下の人は105名でした。

2回以上転倒した人には「噛み合わせがない群」が多かったのですが、驚くべきことに、入れ歯の治療を行うことができた10名のうち、1年後に歩行困難となっていた3名を除く全員で、転倒の回数が減っていたのです。

噛み合わせとパワー・スピード・バランス

実際、筆者の研究でも、噛み合わせの調整の有無によって、歩行の再現性が異なっていました。またスポーツ歯科の分野でも、噛み合わせの接触面積の広さの違いが、パワー・スピード・バランスに影響したという学会報告があります。噛み合わせの接触面積が広いほど、パワー・スピード・バランスの数値が良くなっていたというものです。

これらの研究の対象は若い人やアスリートなので、残念ながらすべてを高齢者に当てはめることはできません。筋力や体力などが異なるからです。

歯を残し、減ったら入れ歯で補う

しかし、前述の2つの報告から考えると、次のように言えるのではないでしょうか。

  • 歯は、多く残っているほうがよい

  • 歯の数が減ってきたら、しっかりと入れ歯などを入れて、転倒対策をしておこう

入れ歯をきちんと入れて食べることは、もちろん噛む効率や栄養の摂取などにも影響します。もし周囲に、入れ歯を入れていない方がいたら、ぜひ歯科医師に相談してみてください。

参考文献

  1. Elble RJ, et al. J Neurol. 238: 1-5, 1991.

  2. Larish DD, et al. Ann NY Acad Sci. 585: 18-31, 1988.

  3. Winter DA, et al. Phys Ther. 70: 340-347, 1990.

  4. Grabiner PC, et al. Arch Phys Med Rehabil. 82: 31-35, 2001.

  5. Callisaya ML, et al. Age Ageing. 39: 191-197, 2010.

  6. 北濃成樹, 角田憲治, 大藏倫博, 他. 厚生の指標. 62(11): 9-14, 2015.

  7. 吉田光由, 森川英彦, 他. Osteoporosis Japan. 14(1): 114-115, 2006.

執筆者 藤巻 弘太郎(歯科医師)

スポーツ歯科・睡眠歯科を専門とする。日本体育協会(現・日本スポーツ協会)公認スポーツデンティスト、日本スポーツ歯科医学会認定医、日本顎咬合学会認定咬み合わせ医、日本口腔検査学会認定医、日本ドライマウス協会認定医(いずれも執筆時点)。

※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。

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