ご遺体の冷やし方と、含み綿・着替え・顔剃り・メイクのポイント ― はじめてのエンジェルケア③

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音声:VOICEVOX:九州そら
医療・介護の事業者向けに当社が行っている「エンゼルケア講習」の内容を、全3回の無料コラムで解説しています。最終回の第3回は、葬儀社がどのようにご遺体を冷やしているかと、処置の流れの中で気をつけたい点(含み綿・着替え・顔剃りと保湿・体液への備え・メイク)を扱います。
葬儀社はどのようにご遺体を冷やしているか
葬儀社がすぐには来られず、ご家族の到着にも時間がかかる。そうした状況はほとんどないと思いますが、万が一に備えて、葬儀社がどのようにご遺体を冷やしているかを頭の片隅に置いておくと役に立ちます。
葬儀社は通常、ドライアイスを10kg使って処置します。10kgを4つに切り分け、次のように置きます。
おなかに2つ:第1回でお伝えしたとおり、おなかは変化がいちばん始まりやすい場所。外からは見えない部分ですが、においも出やすいため、まず冷やす
顔の両側に2つ:口のまわりは変化が始まりやすく、また棺の蓋を開けてお花を入れるときなど、ご家族が目にするのは主にお顔のため、重点的に冷やす
この配置で冷やしていれば、手足に変化が始まることはほとんどありません。基本的には、この配置で問題ないと考えられます。
発熱していたご遺体や感染症のご遺体など、変化が早いご遺体の場合は、繰り返しになりますが、変化が始まる前に防ぐことがより重要です。その場合は胴体を広く冷やすとともに、枕の代わりにドライアイスを敷いて、頭の後ろも冷やします。頭の後ろを冷やすと、お顔がとても冷えやすくなります。
なお、ドライアイスは素手で触れると凍傷のおそれがあり、閉め切った部屋では換気も必要です。施設でドライアイスを扱う場合は、葬儀社に相談してください。
処置の流れと「含み綿」の考え方
エンジェルケアの処置は、おおむね次の流れで進みます。
1 含み綿:鼻・口などに綿を入れる(行う場合)
2 衣服を脱がせる
3 洗体・清拭:お体をきれいに拭く
4 着せ替え
5 顔剃り・保湿
6 メイク
質問がもっとも多いのが、最初の含み綿です。鼻や口、お尻に綿を入れたほうがよいのか、入れるならどうすればよいのか、という質問です。当社が講習や提携で関わっている事業所のうち、鼻や口に綿を入れているのは1割ほどで、ほかの事業所は行っていません。最近は綿のほかに、細いチューブのついたシリコンジェルのスプレーで鼻や口、お尻をふさぐ製品もありますが、1本2,000円ほどと高価で、鼻や口に使うには技術も必要です。
ひと昔前は、ほとんどの医療機関で鼻や口に綿を入れていました。その主な理由は、胃の内容物が鼻や口から出てこないようにするためです。一方、納棺師は必ず綿を入れますが、その理由は胃の内容物を止めるためではありません。理由は次の3つです。
においの出口をふさぐ:おなかは細菌が多く、においが出やすいため
虫の出入り口をふさぐ
口を自然に閉じる:30cmほどの長いピンセットで、鼻から喉の奥まで綿を入れる。喉が少し圧迫されることで、口が自然に閉じやすくなる
実は、納棺師が喉の奥まで深く綿を入れていても、胃の内容物は、出るときには出てしまいます。鼻や口の入り口に少し綿を入れる程度では、胃の内容物が出てくるのを防ぐことはできません。こうした理由から、現在は医療・介護の現場では含み綿を行わないところが多くなっています。
なお、納棺師は鼻に沿って上に向けて綿を入れるのではなく、顔に対して垂直に、鼻の穴からまっすぐ喉の方へ入れていきます。上に向けると、すぐに行き止まりに当たってしまうためです。とても難しい処置なので、現場では無理に行わないほうがよいでしょう。
着せ替え:手を組む位置に注意
着せ替えのあと、手をおなかの上で組むことがあります。女性の場合はおおむね問題ありませんが、男性の場合は特に注意が必要です。男性がおなかの上で手を組むと、肘が横に大きく張り出します。その状態で硬直が始まると、横幅が広くなりすぎて、棺に入らなくなってしまうのです。
肘が出ないように脇を閉じて手を組むと、今度は手が宙に浮いてしまいます。手を組むなら、おなかの低い位置で組むか、胸の高い位置で組むかになります(胸の上で組むと、キリスト教のお祈りのような形に見えることもあります)。最近は、手を組まずに体の横にそのまま置く方も多くなっています。手を組む場合は、肘が張り出さないことだけは注意してください。
顔剃りと保湿:見えない傷に注意
第1回でお伝えしたように、顔の乾燥が進むと、目や口が閉じにくくなるなどの影響が出ます。そのため、顔剃りとあわせて保湿をしておくことが大切です。
男性の場合は、ひげを剃ることもあります。看護師はカミソリを使えますが、介護職は電動シェーバーを使うことが多いと思います。どちらの場合も注意したいのが、目に見えない小さな傷です。
生きている人の場合:カミソリ負けで赤くなっても、時間がたてば自然に引いていく
亡くなった方の場合:赤くなったところが、そのまま赤黒く変色していく。剃った直後は何ともなかったのに、時間がたってから黒ずんでくるケースもよくある
ひげを剃るときは、皮膚を傷つけないようにやさしく丁寧に行い、剃ったあとは保湿をしておきましょう。
体液が漏れやすいとき:「止める」より「漏れても大丈夫な備え」を
看護師からよく受ける質問に、「体液が多く出てしまう方はどうしたらよいか」というものがあります。たとえば、点滴の針を抜くと、針が入っていた穴から体液が出てきてしまうことがあります。また、血液をさらさらにする薬(血栓をできにくくする薬)を飲んでいた方も、体液が出やすくなることがあります。
これについては、基本的に医療従事者の皆さんが行っている対応と同じことしかできません。葬儀社や納棺師も、体液を止める方法を持っているわけではない、というのが正直なところです。葬儀社が得意なのは、止めることよりも、万が一漏れても大丈夫なように備えることです。
ご自宅で安置する場合:葬儀社が到着すると、防水シーツで対処する
棺:棺のいちばん内側には防水のシートが貼ってあり、その上の飾りの布団に、さらに防水シーツを二重に敷く。体液がにじんでも、棺が汚れて見栄えが悪くなることを防げる
エンゼルメイクのひと工夫
最後はメイクです。女性の職員が多く活躍されている現場では釈迦に説法かもしれませんが、お顔の印象が変わるひと工夫を紹介します。
ファンデーション:仕上げの段階で、目元は上から下へ、口元は下から上へと流れをつくる。目元が少し下がり、口角が少し上がって見え、穏やかな表情に近づく
頬:少し濃いめに入れると、お顔全体の血色がよく見える
リップ:普段と同じように、外側から塗る
メイクについては、「お化粧が落ちてしまうのでは」という質問もよくいただきます。ご遺体は、変化を防ぐために専用の冷蔵庫で冷やされます。お葬式のときに冷蔵庫から出すと、お体の表面に結露が起き、水滴がつきます。この結露で顔がぬれて、お化粧が落ちることは確かにあります。
その場合も、ウォータープルーフ(耐水性)の化粧品を使えば、ある程度防ぐことができます。また、最初にお化粧をしてから時間がたつと、お通夜の前などに手直しが必要になることもあります。
第3回のポイント
葬儀社はドライアイス10kgを4つに分け、おなかに2つ、顔の両側に2つ置く。変化が早いご遺体は、胴体と頭の後ろも冷やす
納棺師が綿を入れるのは、においと虫の出入り口をふさぎ、口を自然に閉じるため。鼻や口に少し綿を入れても胃の内容物は防げず、現在は行わない現場が多い
男性がおなかの上で手を組むと、肘が張り出して棺に入らないことがある。組むなら肘が出ないように
顔剃りの見えない傷は、時間がたつと赤黒く変色する。やさしく剃って保湿を
体液は止めるより、防水シーツなどで漏れても大丈夫なように備える
ファンデーションは、目元は上から下、口元は下から上へ。結露でお化粧が落ちることがあるため、耐水性の化粧品や手直しで対応する
3回にわたって、エンジェルケアの土台となるご遺体の知識をお伝えしました。ご遺体の変化は、始まってしまうと止められないものが多くあります。だからこそ、亡くなった直後からの「体温」と「乾燥」への配慮、そして室温などの環境づくりが、お別れまでのお姿を守る鍵になります。ケアの具体的な手順は、連載「エンジェルケア実務研修(全8回)」で詳しく解説しています。
はじめてのエンジェルケア(全3回)
第3回 ご遺体の冷やし方と、含み綿・着替え・顔剃り・メイクのポイント(この記事)
あわせて読みたい:エンジェルケア実務研修(全8回)
第5回 基本手順10ステップ(後編):体液漏出・着衣・エンゼルメイク・冷却・記録:体液漏出への対策、着衣、エンゼルメイク、冷却の手順
第6回 病態・状態別のケア:浮腫・黄疸・褥瘡・出血・医療器具・医療用麻薬・感染症:感染症のご遺体など、状態に応じたケア
シリーズ全体は、マガジン「エンジェルケア実務研修(全11回)」からまとめてお読みいただけます。
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この記事は、noteの無料連載「はじめてのエンジェルケア(全3回)」でも公開しています(noteで読む)。noteでは、実務研修とあわせてマガジン「エンジェルケア実務研修(全11回)」にまとめています。
※本記事は、株式会社ネクストの「エンゼルケア講習」の内容をもとに、一般的な考え方をまとめたものです。実際のケアは、医師の指示、施設の手順書、最新の法令や行政の指針に従ってください。研修のご依頼・ご相談は、お問い合わせフォームからお寄せください。




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