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アルツハイマー型認知症の食支援 ― 「食べない」原因は“認識”にあることも

執筆者の写真: 株式会社ネクスト 編集部
株式会社ネクスト 編集部
11 時間前
読了時間: 5分

執筆:増田 翼(看護師)

「食事」とひと言でいっても、食べるまでにはいくつかの過程があります。食べ物を認識し、どのように食べるかを考え、口まで運び、噛んで飲み込みやすい形にして、のどまで送ります。そして、のどまで来た食べ物を「ごっくん」と飲み込むのが「嚥下」です。

今回は、食べ物を認識すること、そしてどうやって食べるかという「食べる構え」をつくることの大切さについてお話しします。

年齢を重ねるにつれて認知症や脳卒中などの病気にかかりやすくなり、その症状や後遺症が、食事をするときの問題になることがあります。食事に集中できずにキョロキョロする、食べ方が分からず箸を上手に使えない、そもそも食べる気持ちになれないなど、あらわれる症状はさまざまです。

事例:ご飯だけを残してしまうAさん

有料老人ホームに入居中のAさんは、食べる量が徐々に減って体重が落ち、体力が低下して転倒することが多くなりました。Aさんはアルツハイマー型認知症と診断されていましたが、買い物が好きで、ヘルパーさんと一緒に近所のコンビニに行くのを楽しみにしていました。

施設の方から「飲み込みの機能に問題があるのではないか」と相談があり、食事の場面を見せていただきました。

食事は、他の入居者の方と一緒に食堂でとっていました。テレビがついていましたが、そちらに気を取られる様子もなく、ひとりで食事をしていました。Aさんは、おかずは食べるものの、茶碗に盛られたご飯にはほとんど手をつけていませんでした。

Aさんに「ご飯が残っていますよ」とお伝えすると、「あら、本当?」と言って茶碗のご飯を箸で取り、問題なく口まで運び、もぐもぐと噛んで、むせることもなく上手に飲み込みました。口の中を確認すると総入れ歯でしたが、話している最中に外れたり食べ物が挟まったりすることもなく、つけ心地もよいようでした。

施設の方に、いつもご飯を食べないのかを確認すると、「焼き鳥丼のときも、焼き鳥だけ食べてご飯は残していました。タレのかかったところは食べていました」とのこと。そのときのどんぶりを見せていただくと真っ白な陶器で、いつも使っている茶碗も同じように真っ白なものでした。

そこで、白い茶碗ではなく黒いお椀にご飯を盛り付けていただいたところ、Aさんは自分から進んでご飯も食べるようになったのです。

問題は「飲み込み」ではなく「認識」だった

Aさんは飲み込みの機能には問題がなく、噛んだり飲み込んだりする前の段階、つまり「食べ物を認識する」ところに問題があったのです。

黒いお椀に変えてからはご飯も食べるようになり、食事量は以前より増えましたが、それでも落ちてしまった体重を取り戻すことはできませんでした。そこで医師に補助栄養剤の処方をお願いし、十分な栄養を確保できるようになりました。十分な栄養をとって体力を維持できたAさんは、今でもヘルパーさんと近所のコンビニに買い物に行き、大好きなお煎餅を食べています。

アルツハイマー型認知症の方は、物を正しく認識する機能が衰えることがよくあります。Aさんの場合は、白い茶碗に盛られた白いご飯を認識できず、すでに食べ終えた空の食器と勘違いしてしまい、食事が進まなかったようです。

このように、食べる量が減ると「飲み込みの機能に問題があるのでは」と捉えられがちですが、実は飲み込みには問題がなく、食べ物を正しく認識できていない、ということがよくあるのです。

箸が使えない・食事に集中できないときの工夫

Aさんの場合は食事を「認識できない」という症状でしたが、ほかにも、箸やスプーンを上手に使えない、食事に集中できないといった症状があります。こうした症状には、どのように対処すればよいのでしょうか。

箸やスプーンが使えないとき

箸やスプーンなどの食具を上手に使えなくなることを「失行」といいます。箸やスプーンを用意しても、それを使って口まで食べ物を運べない、手づかみで食べてしまう、といった様子が見られます。

その場合は、おにぎりやサンドイッチにすると手づかみで食べられ、ご飯やパンと一緒にほかの栄養素もとることができます。

食事に集中できないとき

テレビを消すことはもちろんですが、小皿に小分けにするのではなく、ワンプレートの皿に盛り付ける、品数を少なくして食べ終えたら次のお皿を出す、といった工夫をすると、ほかのものに注意がそれずに食事をとることができます。

その方の「できる力」を引き出す食支援を

認知症の人は、今後も増えていくと見込まれています。食べることを支援するためには、口やのどだけでなく、食べる環境への支援がますます必要になってきます。また、認知症と一口にいっても大きく4つのタイプに分けられ、それぞれ症状が異なるため、その方に合った援助が必要です。

「栄養をとる」という視点だけで考えれば、介助して食べていただくほうが簡単かもしれません。しかし、その方のできる力を引き出し、食事を楽しんでいただくために、さまざまなアイデアで食べる環境を整えていただければと思います。

編集部注:執筆時点の原稿では「認知症の人は2025年に約700万人(65歳以上の約5人に1人)に達する」という当時の推計を紹介していました。その後、2024年に公表された厚生労働省の研究班による推計では、2025年の認知症の人は約470万人、軽度認知障害(MCI)の人は約560万人とされています。

執筆者 増田 翼(看護師)

※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。

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