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ALS(筋萎縮性側索硬化症)と「食べる」の障害 ― 進行に合わせた食支援と選択肢

執筆者の写真: 株式会社ネクスト 編集部
株式会社ネクスト 編集部
11 時間前
読了時間: 5分

執筆:増田 翼(看護師)

筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)は、体を動かすことが徐々にできなくなっていく病気です。進行の仕方は人によってさまざまで、腕や足の筋肉から衰えていく方、息をするための筋肉(呼吸筋)から先に障害される方、飲み込みから障害される方がいます。

また、数年かけて症状が進行する方もいれば、発症から人工呼吸器を装着するまでが数か月と短い方もいます。

現在、病気の進行をわずかに遅らせる薬はありますが、根本的に治す治療薬はありません。そのため、今ある症状を和らげる薬を使っていきます(対症療法)。

ALSは体を動かすための神経(運動神経)が障害される病気のため、「寒い」「暑い」「痛い」などを感じる感覚神経には問題が生じません。そのため、ALSの方には排尿障害(おしっこが出ない)、目の動きの障害、感覚の障害、褥瘡(床ずれ)は見られないとされてきました。

しかし、人工呼吸器の装着によって以前より長く生きられるようになったことで、必ずしもこの限りではないとされています。

ALSの摂食嚥下障害

食べる機能の障害のあらわれ方はさまざまです。腕などの筋力が低下すると、自分で食べることが難しくなります。また、顔の周りの筋力も同じように衰えるため、噛むことや舌を動かすことも難しくなります。

さらにのどの筋力が落ちると口から食べること自体ができなくなり、最終的には胃ろうが必要になる方も多くいらっしゃいます。

ALSに限ったことではありませんが、神経に障害をもたらす病気の方は、十分な栄養をとることが難しくなります。そのため、早い段階から栄養不足にならないよう注意しておく必要があります。

この食べる機能の重症度(FRS)を5つの段階に分け、胃ろうや経鼻栄養などの補助栄養をいつ検討するかの目安とする指標があります。

食べる機能の重症度(FRS)の5段階

  • FRS 4:普通食の段階 食べる機能の障害に自覚がない段階です。定期的に検査を行うことで障害に早く気づき、対策をとります。

  • FRS 3:障害を自覚する段階 食べにくさや飲み込みにくさを自覚する段階です。リハビリテーションを導入し、飲み込みの機能や栄養が足りているかの評価、呼吸機能の確認を行います。

  • FRS 2:食事の変更が必要な段階 食べる機能に合わせて食事の調整が必要な段階です。障害が顕著であれば、呼吸機能が悪化する前に胃ろうや経鼻栄養を検討します。

  • FRS 1:栄養剤による補助が必要な段階 必要な栄養量を口からとることが難しいため、胃ろうや経鼻栄養から栄養剤を投与する必要があります。

  • FRS 0:口から食べられない段階 食事による疲労感や誤嚥の危険性が高い場合は、口から食べることを中止するか、お楽しみ程度にとどめ、栄養剤を中心とした生活になります。

この重症度に合わせて、食事の形や、補助栄養・経管栄養を検討していく必要があります。

食べる前の準備運動と、飲み込み方の工夫

飲み込む機能の低下に合わせて、リハビリテーションを行います。障害の程度が軽く、口から食べられる時期には、食べる前に口の周りの体操をするのがおすすめです。「うー」「いー」と声を出して唇の周りを動かしたり、大きく口を開けたり、舌を出して上下左右に動かしたりすると、よい準備運動になります。

ポイントは、疲れを感じない程度にとどめることです。ALSにおいて、疲れは天敵です。過度な疲労は筋力の低下を助長するため、あくまで準備運動として、疲れない範囲で行ってください。

病状が進行すると、飲み込み方にも工夫が必要になってきます。たとえば、1回飲み込んだら次の食べ物を口に入れずにもう一度「ごっくん」と飲み込む方法や、顎を少し引いて飲み込む方法です。

また、食道の入り口が開きにくい方では、飲み込む瞬間に顎を前に突き出す方法もあります。さらに、食べるときの姿勢を工夫することで、誤嚥せずに食べられる場合もあります。

ただし、こうした飲み込み方は習得が難しく、正しく飲み込めているか自分では判断がつかないこともあります。かかりつけの医療機関で、飲み込みの検査を受けることをおすすめします。

呼吸障害と摂食嚥下障害の関係

ALSでは、食べる機能と呼吸の機能が並行して低下していきます。

映画『博士と彼女のセオリー』をご覧になった方もいらっしゃると思いますが、作中でホーキング博士が人工呼吸器をつけていた姿が印象的でした。

健康な人であれば、食べ物が気管に入ったときに強くむせて吐き出すことができます。しかし呼吸機能が低下すると、十分にむせることができずに食べ物がそのまま気管に入ってしまい、誤嚥性肺炎を起こすことがあります。

呼吸機能は、胃ろうをつくる時期とも関係があります。胃ろうの造設は、肺活量が十分に保たれ、血液中の二酸化炭素濃度が上がっていない時期に行う必要があります。この時期を逃して胃ろうを造設すると、病状が一気に進行する危険性があります。

ただし、必ずしも胃ろうが必要というわけではありません。胃ろうを希望されない方は、経鼻栄養などで栄養をとることもできます。

誤嚥防止術という選択肢

口から食べることを強く望む場合には、「誤嚥防止術」という選択肢があります。気管と食道の入り口を手術で分け、食べ物が気管に入らないようにする手術です。

これにより、長く口から食べ続けられる可能性があります。また、唾液の誤嚥がなくなることで痰の吸引の回数が減るなど、ご家族の介護負担の軽減にもつながります。

ただし、すべての方が口から食べられるようになるわけではなく、残念ながら手術を行っても口から食べることができない方もいます。

誤嚥防止術に限らず、胃ろうや、人工呼吸器のための気管切開など、重要な決断をするときは、医師をはじめとした医療職とよく話し合って決めることが、よりよい決断につながります。

制度を活用し、身近な専門職に相談を

ALSは徐々に体の自由が奪われていく病気ですが、介護保険や医療保険を利用しながら在宅で暮らしている方も多くいます。こうした制度を利用して、リハビリテーションや訪問看護を手厚く受けることもできます。介護に悩んだときは、ぜひ身近な医療・福祉の専門職に相談してみてください。

執筆者 増田 翼(看護師)

※本記事は、医療・介護の専門職による寄稿を当社編集部で再編集したものです。内容は執筆時点の情報にもとづく一般的な解説であり、症状や状況には個人差があります。具体的な判断は、かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師などの専門職にご相談ください。

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